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シンプルで合理的な生活

翻弄される賃貸住宅市場の未来

ここ数年、不動産投資の勧誘を受けることが増えている。
すべてお断りしているが、それでも仕事でお付き合いのある方からこうした話を持ってこられることが途絶えない。

不動産投資というと周りには不労所得のように考えている人もいるのだが、投資というよりは事実上は事業である。
特に将来的なことを考えれば、決して安易に行えるものではないだろう。


こうした勧誘を受けるようになったのはやはり2013年以降になる。

この年よりアベノミクスと称する経済政策が始まって4年。
その成果についてはさまざまな意見があるとはいえ、この手の解説にはそれぞれの都合に合わせた数字が用いられることが多く、頭から信用しない方がよさそうな論評が大半だ。

そもそも数字は海外情勢にも大きく影響されるもので、短期的な数値に一喜一憂するのはあまり好ましくないのではないだろうか。

Tokyo

緩和マネーと賃貸住宅市場

現在行われている異次元緩和で期待される効果はいくつかあるが、そのひとつとしてあげられるのが、金利の低下により金融機関の企業への融資を活性化させ設備投資を促すというものだ。
だが増加はしているとはいえ、3回に渡る緩和の規模の割に、企業の設備投資は期待ほど伸びてはいないのが現状である。

今年度に入り大企業の設備投資計画は明るい兆しがみえているが、中小企業は慎重姿勢を採るところも少なくない。

現在、金融機関の融資の行き先として真っ先にあげられるのが不動産市場だろう。
当初は新築が中心だったが昨年から賃貸住宅市場の伸びが著しい。

もちろん賃貸住宅市場が伸びるのは悪いことではない。
仲介だけでなく、物件の管理設備からリフォームまで様々な市場に影響がある。

ただし、将来の賃貸住宅の市場状況を考えれば、決して喜ぶべき話ではない。

マイナス金利による加速

住宅市場の推移をみると、2013年の異次元緩和発動で伸び、消費増税で沈下した後、2016年より賃貸住宅が大きく伸びている。

http://www.homes.co.jp/cont/press/report/report_00173/

2016年は第3次の緩和が行われており、このときの特徴はマイナス金利の導入である。

マイナス金利については誤解も多いが、各金融機関が日銀の当座預金に預けている金額のうちのごく一部にのみ金利がマイナスになる。
金融機関は日銀に対し、顧客の引き出しに備え、預金の一定割合を入金しなければならないのだが、マイナス金利はそれを超えた部分の預金のごく一部に対してのみかかることになる。

とはいえ、これまでは日銀に預けておくだけで利子が得られたのだが、それがなくなるのだから、当然、銀行としてはその分の利益をなにかで得なければならない。

とはいえ、よい借り手がそうそう都合よく現れるわけでもなく、特に地方の信用金庫のような小さな金融機関は融資先に苦労することになる。

一方、借り手として期待される中小企業にしても、将来の展望がない状況で事業拡大をはかるわけにはいかない。
後継者がいない、今後の事業に不安がある、さらに過去に銀行の貸し剥がしを本人や親族が体験している人にとっては、二の足を踏むのも当然だろう。

そもそも銀行は晴れの日に傘を貸し雨の日に取り上げると言われるような商売である。
とにかく今すぐ融資を受けたい企業よりも、融資はあまり必要でない企業の方が、安心して貸し出せる財務体質であることが多い。


そこで目をつけられたのが個人の、もっとはっきりというのなら、賃貸マンションや賃貸アパートを経営しようと考えている素人だった。

確実な担保としての不動産

銀行に事業資金を借りに行った経験のある人もいるだろうが、融資の際には担保として期待されるのが不動産である。
売掛債権や株式等もあるが、やはり不動産が重視されるし、無担保では金利が跳ね上がるし審査も厳しくなる。

多くの銀行は事業の有望性や展望をはかることは得意ではなく、この類の融資に対する審査能力についてはお世辞にも高いとはいえない。
彼らはVCではないので当然といえば当然だ。

これが賃貸物件建築あるいは取得の融資の場合は、対象の物件を担保として取れるため、銀行側としても融資がしやすい。

そこへきて、相続税対策に賃貸物件を建てる高齢者が増加しているという上、サラリーマン大家など、賃貸物件への投資ブームといった側面もあり、こうした状況が、賃貸住宅市場の急激な増加へとつながっている。

Tokyo

将来の賃貸住宅市場の不安

問題なのは、賃貸住宅市場の未来が必ずしも明るいものではない点だ。

今年の1月に日銀が賃貸住宅市場の現状に不安を呈した件は先ごろ東洋経済でも取り上げられ話題となった。

https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/pdf/mif_121.pdf


いわゆる「さくらレポート」と呼ばれる地域経済報告で、2017年1月の6ページ目になる。

また、みずほコーポレート銀行のレポートでも2030年の賃貸住宅市場は3割減という推測を出している。

https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/pdf/mif_121.pdf


不動産関係の投資は期間は長期となるが、日本の人口は減少へと向かっている。
それに加え10年を過ぎてくると、新築の賃貸物件も最初の大規模な修繕を迎える時期になる。

本来ならば賃貸物件には適切ではない場所にすら多く建てられるようになっている。
この手の物件では、古さの目立つようになれば空き室が増え家賃収入が減るのは確実である。
そのなかでブームに乗せられてしまったサラリーマン大家や節税物件の大家が、どれだけ賃貸物件の経営者として適切な手を打てるかと考えると、

家賃の下落圧力に耐えられないで売却を試みる大家もいるだろう。
だが、空き室だらけで修繕が必要な物件がどれだけ欲しがる人がいるかと考えれば、二束三文で買い叩かれる可能性も高い。

場合によっては破産を選択する人も出てくるだろう。

貸し付けている銀行にも影響が出るのは避けられない。
担保に取っている不動産の評価額がこのときどうなっているのかと考えると不安が募る。

すでに地方では金融機関の合併が進んでいる。
金融庁の意向もあるが、こうした将来を見据えた体力強化をはかっている。
だがそれでもかなり厳しい状況になると予想されている。

住みたい土地の家賃は下落しない

余談だが、賃貸住宅の過剰供給により家賃の下落が期待されるとはいえ、借り手にはそれほどメリットはないだろう。
空き家も増加しファミリー層は減るが、高齢者の独身単身者世帯が増える上、持ち家に拘る人が減るため、賃貸住宅の需要自体はそれなりにあると考えられている。
そのため将来的にも予想をはるかに超えた急激な人口の落ち込みがない限り、多くの人が住みたいとおもうような場所、たとえば栄えている街の駅前などは家賃が下がる可能性は少ない。

別の見方をすれば、不動産投資は10年後20年後、その物件が競争力のある魅力的なものかどうか見極める目と経験値、そして不動産経営に対する情熱があるならば、チャレンジする価値はあるかもしれない。
(とはいえ積極的にはおすすめできないが)