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史学的なファンタジー戦記、カトウコトノ『将国のアルタイル』

好きな作品だが、人にすすめる際になぜか欠点から話してしまう。
そんな作品がいくつかあるが、将国のアルタイルもそのひとつだ。


将国のアルタイルは、今年で連載10周年を迎えたカトウコトノによる本格的なファンタジー戦記。
現在アニメ化もされ、放送されている最中である。

おすすめのマンガ一覧のような記事ではときおり挙げられているのをみるが、単体での書評やレビューはあまり見ない。


主人公はルメリアナ大陸のトルキエ将国でわずか17歳で将軍となったマフムート。
彼は友人の危機に単身で駆けつけたことで、将軍位から降格され、見識を広めるために各地を回ることに。
仲間を得て功績を立てたマフムートは将軍に復帰、そして強国バトルライン帝国との戦いに身を投じていくことになるのだが....

というストーリーである。


この作品、序盤と中盤以降にかなり作風に落差がある。
主人公の少年マフムートの成長譚であるのだが、序盤はかなり子供っぽい性格とストーリー展開である。

彼は失敗を重ねて成長していくのだが、その部分の描写が本人も周りにも薄く、このあたりの描写が丁寧に描かれていないことで、唐突な人格変更に違和感を覚えてしまう。

アニメ版もこのあたりが難しかったのか、声優の演技も最初から後半を意識したものに寄っていたように感じた。

おそらくだが序盤の雰囲気が異なるのは、掲載誌が少年誌(とはいえ、掲載されている作品をみると文字通り少年マンガ誌かどうかは疑わしいが)のために、様子をうかがいつつの連載だったのだろう。
中盤以降の駆け引きよりも、主人公の冒険譚としての色合いを強くし、連載が安定するとともに本来描きたかった作品へと変わっていったのではないかと考えている。

それが後々も尾を引いているようで、序盤大活躍のイヌワシのイスカンダルが途中、すっかり行方をくらませている時期がある、外交問題に発展させたい策略の準備がお粗末など、細かな部分でおかしなところが出てしまっている。
ただ、連載にはよくあることと、あくまでもご愛嬌のうちで済ますことはできるだろう。

 

とはいうものの、最近のファンタジー戦記としては出色の出来ではないだろうか。

序盤は個人の冒険譚の色合いが強いのだが、巻数を重ねるごとに戦記物としての作者の特徴が色濃くなる。
個人の武勇が戦局を支配せず、戦術や兵科、交渉や援軍といった要素が重要となっている。
主人公をはじめとしてその場の誰かの能力が突出しているわけではないのもいい。
マフムートの同僚でライバルのサガノスや、バトルラインのルイ大臣のように、序盤からすぐれた洞察力と計画性を持った人物として登場するキャラクターでも、他のキャラクターに出し抜かれたり、うまくいかないことはめずらしくない。
登場人物の数は多いがそれぞれ個性的であり、そのため情勢が二転三転し、一区切りつくまで着地点が読めないのも戦記としてポイントが高い。

そのために物語としての爽快感には欠けるのだが、たとえばアルスラーン戦記やキングダムのような人気作に比べ、地味ではあるものの、将国のアルタイルも、負けず劣らず地に足の着いた良作だとおもう。

好みの問題だが、登場する国や都市国家が現実の歴史上の存在、あるいはその複合体が透けて見えるのも、ファンタジーとしては安直過ぎるのだが、カトウコトノさんは史学科の出身と聞いたことがあり、作品からそんな素養が見て取れるのも好きなところだ。


最後に外伝の存在とアニメ版について少し。

外伝の1巻を読んでみたが、正直なところなにが外伝なのか疑問に思わざるをえない作品だった。
本編にも登場する東弓という火器が登場するのだが、あとは申し訳程度に地名が出てくるだけだ。
雰囲気も異なるし、なんだかできの悪い二次創作を読まされたような気分だった。

あとで外伝の原作者を調べると、過去にも同じように火縄銃が登場する歴史マンガを描いていて打ち切られているのだが、そのモチーフを利用しているだけのように感じた。
いくら掲載誌のシリウスがスピンオフ好きとはいえ、もう少しどうにかならなかったのだろうか。

またアニメ版は急展開で趣がないのが気になる。
編集部からどこそこまでをアニメ化してくれという要望があり、いろいろと切り詰めて強引に話を進めているような感じだった。

 

なるべくネタバレにならないように書いたのだが、人におすすめするのにはあまり適さない内容になってしまった。
読書ブログで読みたくなるような紹介を書ける人のすごさをあらためて実感したのだった。

 

[まとめ買い] 将国のアルタイル(シリウスコミックス)